中医学の概略

1.はじめに

中国医学(以下、中医学)を学ぶ場合、私の経験では中医学の全体がなかなか見えなくて、何から学ぶのか・本当に必要な事は何なのか等と悩みながら学習を始めたものだから、学習内容が散漫で知識の虫食い状態になってしまい、また始めから学習し直すことになってしまいました。このようなことにならないよう、まず中医学の概略を理解して構成内容を把握してから、各編に進み自らの理解程度を確認しながら学習するのが一番近道だと思います。また、新しい専門用語が出た時には平易な言葉で説明を加え、曖昧さをなるべく残さずに学習を積み重ねて行き、確実な基礎知識を獲得するよう紹介したいと考えています。

2.中医学の内容

 中医学の内容は、まず“基礎理論”があります。この基礎理論こそが中医学全体を支えている土台であり、中医学を特徴づけている考え方です。ここをキチンと理解しておくと次のステップで混乱することはかなり避けることができます。2番目の内容は“弁証”です。この聞き慣れない言葉を簡単に説明すると、病人の現在の状態を認識すること、つまり診察と診断を包括した行為のことです。3番目は“論治”です。論治とは治療法のことです。この言葉は弁証とセットで弁証論治と表現されることが多いです。つまり、論治とは弁証による診断を根拠にして導かれた治療法であるからです。
 ここまでが、私たちが学ぶ中医学の内容です。しかしこの内容を基にしてさらに、中医内科学・中医婦人科学・中医小児科学などがあります。また、漢方薬の分野では、中薬学・方剤学。針灸分野では、針灸学・経穴学などがあります。いずれにしても臨床で応用するためには“基礎理論”・“弁証”・“論治”の内容を理解する必要があるのです。

これから学ぼうとしている中医学は、基礎理論・弁証・論治の順に組み立てられ、そして大体この順に学んでいくわけです。まず、この表に出ている内容について説明していきます。ただし、詳しい説明は各編でおこないますので最低限度必要なことにとどめます。まずは、内容を確認し、専門用語の意味を大体理解すればこのページの目的は達成したことになります。

3.基礎理論の要約

「3.基礎理論の要約」~「5.論治の要約」の内容は要点だけです。
詳細は基礎理論編に進んでからのお楽しみです。

【陰陽学説・五行学説】

陰陽学説と五行学説は、中医学の基礎となる考え方です。

陰陽:陰陽とは、自然界に存在する相互に対立している事物や現象の属性のことで。例えば、上と下、表と裏、寒と熱、動と静などです。
陰陽学説:陰陽の属性を使って自然を認識し解釈する理論であり、その理論でもって人体の生理や病理現象をも解釈しているものです。
五行:自然界に存在する最も基本的な物質のことであり、木・火・土・金・水の五種類のことです。
五行学説:自然界にある事物や現象の関係を、五行の相互関係によって説明しているものです。中医学では、人体の臓腑を五行に分類して各臓腑間の関係を、五行学説で説明しています。

参考として

陰陽と五行学説は古代の人が作った形而上的なものだと考えてしまうと、中医学そのものの真価が十分に発揮できず、さらに臨床治療での幅が狭くなってしまいます。このことが分かるには、臨床で終始一貫して中医学で診断し治療を行って始めて納得のいくものなのです。例えばストレスによる食欲不振の場合、肝の機能(西洋医学で言う肝機能ではなく、中医学で解釈されている肝の生理機能)がストレスによって阻害され、その結果脾の機能(中医学で解釈される脾の生理機能)が低下して食欲不振になることが多くあります。このメカニズムは五行関係によって説明されており、治療も主に肝の機能を調えることで効果を得る事ができるのです。一般的には、食欲に関係ある胃にばかり注目してしまうところですが、これこそ中医学の真骨頂ですね。

【気血津液】

 気血津液:人体を構成する基本物質です。気を基本物質と言う場合、変だなと感じる方もいると思います。気は物質としての側面とエネルギー(機能)としての側面をもっています。詳しくは、基礎理論編をご覧ください。血は血液成分。津液は人体中の液体成分の総称です。

【臓腑学説】

 臓腑学説:藏象学説ともいい、五臓六腑の生理と病理について述べています。五臓とは、肝・心・脾・肺・腎。六腑は胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦です。それぞれの機能を学び、その間にある関係を知ることで、統一された人体像が見えてきます。ここでは、思いも及ばない生理機能や臓腑関係を得て、中医学の面白さとその深さに感動するかもしれませんね。

【経絡学説】

 経絡学説:経絡は気血を運行し・臓腑を連絡し・人体機能を調節する通路であります。この経絡の循行・生理機能・病理変化・臓腑との相互関係を述べているのが経絡学説である。この経絡学説は我々針灸師にとってはかけがえのないものです。しかし、経絡学説は針灸だけのものではなく、中医学全体に貢献しているものであります。その内容は弁証編で紹介します。

【病因病機】

 病因:病因は病気の原因のことです。そして、次のように分類することができます。自然素因(気候によるもの)・生活素因(食習慣など)・精神的素因(ストレスなどによるもの)・体質素因・内生素因(色々な原因で生じる病理産物)・その他の素因(外傷、ウィルス、中毒など)。中医学では、これらの原因で病気が発生すると言われている。

 病機:現在の病気がどのようにして引き起こされたか説明しているのが、病機です。だから、臨床で目の前の患者さんが何故このような状態になったのか理解して治療するために、病因・病機はきちんと学ぶ必要がありますね。

気および陰陽五行の思想に基づき、針灸・湯液(煎じ薬)などにより治療を行う中国の伝統的医学。「医学(医方)」と「薬学(本草)」を含むが、それらは密接に関連しており、分けることは難しい。

中国医学から宗教的・思想的要素を切り離すことは難しく、広義の中国医学には養生術や気功も含まれることになる。

「漢方」とは、奈良時代以降日本に伝わった中国医学に、日本において改良が加えられたものを指す。

歴史

様々な自然現象は鬼神が起こすものであり、祈祷などによりそれを鎮め、祓うことができるという思想は古代からあり、病気についてもその原因は鬼神であると考えられた。この呪術的思想は医学が生まれた後も存続し、現代にも宗教の形で残っている。

漢代(前202~後220)には、中国医学の基礎を作ったとされる二冊の古典的医書『黄帝内経(こうていだいけい)』『神農本草経(しんのうほんぞうけい)』が編まれた。前者は針灸、後者は生薬による治療にくわしい。

『黄帝内経』や『神農本草経』が思想的要素をもっていたのに対し、後漢(25~220)の医者張仲景によって編まれた『傷寒雑病論』は実用性を重視した臨床医学書に近いものであった。

道教教団の基礎となった太平道、五斗米道は、もともと信者の病気治療を目的とする宗教結社であった。

思想

万物を巡るエネルギーである「気」が人間の体内をも流れており、「病気」とはその流れが阻害され身体のバランスが崩れた状態であると考える。

万物を巡るエネルギーである「気」が人間の体内をも流れており、「病気」とはその流れが阻害され身体のバランスが崩れた状態であると考える。

治療は乱れた体内の気の流れを正常に戻すことを意味し、その対象は「病気」ではなく「病人」である。
治療は医師の診断に基づく「証」により行われる。証では患者の症状とともに個人差(体質)が考慮される。

神仙思想・道教と医学

神仙思想、とくに養生術と錬丹術(内丹術)は、「長寿のための健康法」という意味で医学と密接な関係にあった。『黄帝内経』の経絡・丹田の理論は内丹術の基礎となっており、『神農本草経』にある仙薬は『列仙伝』や『抱朴子』にも登場する。『抱朴子』の著者葛洪(283~343頃)は、『玉函方』『肘後救卒方』といった医書も著している。
神仙思想を教義に取り入れた道教もまた医学に大きな影響を与えた。『肘後百一方』や『神農本草経集注』をまとめた陶弘景(456~536)は上清派(茅山派)の道士であった。

1.気気の概念(気・血・津液・精)

人体の気は、いろいろあるが、基本になるものは元気(原気、真気ともいわれる)である。元気とは、父母から受け継いだ生まれながらの先天の気、食べたものが吸収され運化されてできる水谷<スイコク>の気、口鼻より吸入される自然界の空気を総合していう。
気は、全身に流れていて、すべての生命活動の原動力となっており、また先頭にたって他の物を引っ張って行く先駆としての役目を果している。

気の作用

《難経・八難》に「気は、人の根本なり」とある。気は全身に流行分布しており、その作用には五つの働きがある。

推動作用 人体の生長発育、各臓腑、経絡の生理活動、血液の循環、津液の輸布など、みな気の推動運行に頼っている。気の推動作用が減退すると、生長発育の遅れ、臓腑、経絡の生理機能の衰え、血液循環の停滞、水液代謝の低下などが起こって、病理現象が発生する。
温める作用 人体の正常な体温調節、各臓腑器官などすべての生理活動のエネルギーは、気の温める作用によるものである。この温める作用が不足すると、寒がりや手足が冷たいなどの証が現れる。反対に温める作用が昂盛すると発熱やいらいらなどの証が現れる。
防御作用 気は、体表つまり皮膚を保護して外邪六淫の侵入を防止している。外邪が侵入すると外邪と争って外邪を駆逐する。すなわち外邪と相い対待している面からすれば「正気」に属する。またその作用は陽の働きとも似ていることから、「陽気」ともいわれている。
《素問・評熱論》に「邪の湊<アツマ>る所、その気必ず虚す」とある。
固摂作用 気の固摂作用とは、血液の流れを制御して血管の外に溢出しないようにし、汗や尿の分泌や津液の流出を正常に保ち、また精液の出を適度に制御して滑精を起こさないようにするなどである。気の推動と固摂作用は相い反するもののようだが、うまくかみ合って統一的に作用している。一方では血液の循環をよくし、また片一方では血液の流れを統摂して、正常に循環するようにしている。
もし気虚になって血液の推動作用が減退すれば、血液の循環が不利になり、淤血が生ずるようになる。また固摂作用が減退すると、血液は血管外に溢れて出血を起こす。
気化作用 気化とは、気の運動、変化、転化のことで、人体の生長発育の源動力である。たとえば、血液の循環、津液の輸布、食物の消化、営養の吸収、糟粕<ソウハク>(かす、大小便)の排泄、皮膚の温度調節、髪の毛の光沢、各臓腑の機能調節などは、みな気化によるもので、休みなく気化作用を続けて生命を維持している。気の作用の中でも、最も重要な働きということができる。

気の分類

人体の気の分布や来源、機能の特徴は異なっており、その名称も違った呼び方をしている。

元気 父母の血を受け継いだ先天の気のことであり、原気、真気、生気ともいわれている。生命活動の源動力で、人体の気の中で最も重要なものである。元気が充実すれば、臓腑の機能は旺盛になり、人体は益々健康になっていく。
これに反して先天の気が不足すると、疾病が長引き元気を損傷して、それにつれて臓腑の機能も衰え、抗邪力も弱くなり、つぎつぎと色んな病を発生するようになる。疾病治療の根本原則は元気の補給にほかならない。
宗気 肺によって吸入された自然の大気と、脾胃によって運化吸収された飲食物の営養分の気とが一緒になって、胸中に集った気を宗気という。宗気の作用には二つある。
一つは、のどを通って呼吸を行い、言葉や声、呼吸の強弱と関係がある。
もう一つは、心臓の鼓動を推進調節し、気血の運行、身体の温涼や活動に関係がある。
営気 営気とは、血液と共に血管内をめぐって全身を営養している。このような場合、営養物質が生成される過程において、気が関って血となり肉となる営養物質が作られる。
また生成された営養物質は、気の働きによって血液に吸収された後、全身、五臓六腑の組織に営養を行きわたらせる。つまり営気とは、血液になる前の状態のものを血液に転化させ、そして血管の中をめぐらせて、全身を営養しているものである。
衛気<エキ> 衛気は、営気と同じように食べた飲食物の中の営養分によって作られ、営気の血管内をめぐるのと異なり、血管外を全身にわたってめぐっている。その運行は速く力強く、皮下脂肪や筋肉を温め、皮毛を充実柔潤させ、汗腺の開閉を調節し、外邪の侵入を防御している。外邪が侵襲する場合の第一障壁であり、外邪は先ずはじめに衛気の抵抗にあう。
臓腑の気 五臓六腑に分布している気であり、各臓腑の生理機能を推進している。

※詳細は各臓腑の項で後述する。

気の病証

気虚 全身あるいはある臓腑機能の衰退の証候。
主証:めまい、気力や元気がない、消化不良、自汗(じっとり汗をかく)、汗症、活動した後それらがひどくなる、舌淡(赤味がうすく淡い色)。
気陥 気虚の一種で、気力が無く、上に挙げる力がなく下垂した証候。
主証:めまい、息切れ、腹部下墜感、脱肛、子宮下垂、舌淡苔白。現代医学の胃下垂、腎下垂、子宮脱垂、脱肛などに相当する。
気滞(気鬱) 人体のある部分やある臓腑の気が阻滞し、運行が不利になった証候。
主証:つまって脹ったような感じで痛みがある。気滞は各臓腑に生じる。たとえば肝気鬱結が代表的証候で、いらいら、怒りっぽい、胸脇脹痛、乳房脹痛、下腹部の脹痛など。
気逆 気の昇降機能の異常で、気の上逆の証候。
主証:咳喘、しゃっくり、吐き気、嘔吐、頭痛、めまい、吐血など。

2.血血の概念

血は、現代医学の血液と似た概念で、摂った飲食物の営養物質から作られ、営気の作用により血管の中を全身にわたって循環しているものである。

血の病証

血虚 血虚とは、体内の血液の不足、ある部分の血液循環機能の減退によって起こる病理変化である。主な原因としては、失血過多や生血不足によって起こる。たとえば食物中の営養物質の吸収ができなくて、それが血液となることができないことや、淤血が生じてそのために新しく血液を作ることができないなどである。
主証:顔色が蒼白く、めまい、動悸、舌唇の色が淡く、不眠、視力減退、四肢のしびれやつっぱり、閉経など。
血淤 血液の流れが滞って血管の局部や臓腑の中に停滞した証候。このほか、外部打撲や内出血によっても起こる。
主証:淤血局部の刺痛、痛所は固定して移らず、腹内に塊、舌唇は紫暗色、経血は黒い、発狂などの精神異常。
血熱 血分に熱があるか熱毒が血分に侵入した証。
主証:身体熱、口乾、いらいら、不安、各種出血、舌深紅色。
出血 いわゆる出血のこと。原因は色々ある。
主証:血熱出血、気虚出血、血淤出血、外傷出血。

3.津液津液の概念

津と液は、習慣上人体の分泌物を包括して一般に津液と呼んでいる。たとえば唾液、胃液、腸液、関節腔内の液体、なみだ、鼻水、汗、尿などで平たくいえば人体内外の水分である。
津と液は陰に属し、飲食中の営養物質が化生してできたものである。しいて分ければ、津は体液中の比較的希薄な部分で、衛気と一緒に全身に拡散している。また液は体液中の比較的濃い部分で、全身の組織中をめぐっている。

津液の作用

津液の作用は大きく分けて二つある。

組織器官の営養と潤滑

皮膚のうるおいとつや、肉体の豊満、関節の潤滑などは、いずれも津液の営養と潤滑作用によるものである。丁度、機械の潤滑油のような役目を果している。津液は、鼻水、なみだ、つば、よだれ、汗などに化生し、鼻や眼、口腔粘膜を保護している。また、脳髄、骨髄も津液の潤沢作用によって営養を得ている。

体液の平衡の維持

津液は体内の状況や外界環境の変化に応じて体液を調節して平衡を保っている。天気が暑い時には汗を多く出し尿は少なくなり、寒い時には尿は多く汗は少ないというようにして、体液の平衡を保っている。
もし津液の機能が減退して人体内外の変化について行かなくなったら、体液の過度の消耗や過分の貯留が起こり、体液の還流障害や排泄異常をひき起こし、浮腫や痰飲が発生する。ひどい嘔吐や下痢、大汗、高熱は体液の消耗をひき起こす。

津液の病証

津液不足

人体を正常に需要する津液が不足することで、傷津ともいう。主として口渇、咽乾、唇燥、舌乾少津、皮膚乾燥、下肢軟弱、小便少、大便乾結などがみられる。
高熱によってひき起こされるものは、発熱、いらいら、口渇、舌紅、苔黄などの症状がある。気虚を兼ねている場合、つまり気陰両傷では息切れ、疲労、舌淡歯痕<シコン>(歯がた)、少苔などがみられる。このような津液不足は糖尿病によくみられる。

水液内停

臓腑機能の失調によって津液の代謝、輸布、排泄に異常をきたし、水液が体内に停留して発病する。水液の停留部位によって大体二つに分けられる。我が国は多湿なのでこの疾病が多くみられる。

局部水液停留

水液停留の部位の違いによって異なった証候が発生する。《金匱要略》では、痰飲(狭義)、支飲、懸飲、溢飲の四種に分け、総合して痰飲(広義)といっている。 痰飲(狭義) 胃腸に水滞したものを指す。胃に水滞したものは、動悸、息切れ、めまい、胸脇のはり、背中の冷感、胃中の水声などがみられる。腸の水滞では、頭のふらつき、よくつばをはき、下腹部の拘急<コウキュウ>(つっぱり)、臍下の動悸、小便不利などがある。
支飲 胸膈に水飲が停留したもの。咳、呼吸困難、痰多く薄く泡状、浮腫(主に顔面)、病程長い、寒さにあうと発作、舌淡。これは現代医学の急・慢性気管支炎、肺気腫などに相当する。
懸飲 痰飲の邪が胸肋に停留したもの。胸肋痛、咳喘痰多、胸肋脹満、呼吸促迫、舌苔薄白。一般に痰飲より症状が重い。現代医学の胸膜炎などに相当し、結核性が多い。
溢飲 四肢の停水である。身体重痛、四肢浮腫、悪寒無汗、口渇なし、苔白。現代医学の急・慢性糸球体腎炎、心不全、浮腫などに相当する。

全身性水液停留
各臓腑によって種々の病変をひき起こす。

4.精精の概念

精とは、先天の気と後天の気(生まれた後、飲食物の摂取によって吸収された営養物から化生した気)が一緒になって作り出された生命の源泉となるものである。精を理解する上では、広義と狭義の精に分けて考える。
狭義の精は、男女二人の結合によって新しい個体が生まれるという、いわゆる生殖の精である。
広義の精とは、食物の営養物質が化生したもので、生命の活動維持にかかせないものである。

精の分類

先天の精 父母の生殖結合によって生まれた先天的体質のことである。これの強弱は生まれた後の成長発育を左右する。
後天の精 摂った食物の営養物質が化生して出来たもので、生まれた後の成長発育や生命の維持を継続する上で重要なものである。精が充足していれば、成長発育は正常で、生命活動も旺盛で健康である。これに反して精が不足しておれば、発育は遅れ、痩せて体質は虚弱で、病にかかり易い。
先天の精と後天の精は、相互に依存し、相互に補充し合っている。生命が生まれる最初の活動の基になる先天の精のよしあしは、生まれて後からの後天の精を作る条件になる。つまり先天の精の力が充実していないと、生まれた後の後天の精の充実はあり得ない。いわゆる「先天は後天を養い、後天は先天を養う」である。

精の作用

生まれた後からの人体の基になるものである。
臓腑機能の活動を活発にさせ、人体を壮健にする力である。
脳髄の生成を行い、肢体の活動、耳目の働き、精神活動に関係がある。
病邪を防御し、人体の免疫力を増強する作用がある。精が充実し生命力が旺盛であれば、衛気は固密になり、邪は容易に侵入できなくなる。

精の病証

精が亢盛するということはない。つまり精病の実証はあり得ない。精の場合はすべて虚証である。したがって精の作用は、生殖の精不足の性機能減退と発育の異常、また臓腑の精(後天的精)の不足による臓腑機能の低下が考えられる。後天の精は陰に属し、実際には血、津液も含んでいるので、陰虚、血虚、津液不足などの証候が出現する。

5.気と血の関係気は血の帥<スイ>(ひきいる)となす

気はよく血を生じる 血液は陽気に依存して、飲食物の営養分の吸収によって生成されている。陽気が盛んであれば血液生成の力は強く、陽気が衰えると血液生成の力も弱くなる。したがって気虚ではよく血虚を起こし、ついには気血両虚になっていく。
気行<メグ>れば血行る 血液は気の推進力に頼って全身を循環している。気の機能が失調すると血の循環が不利となり、気虚や気滞を起こし、ひどい場合は血淤が出現することとなる。すなわち「気滞血淤」である。
気はよく血を摂す 気は、血が血管内を循環して血管外に溢出しないように統轄している。もし気虚になると、その血を統制できなくなって出血を起こす。

血は気の母である
血は気の母であるという意味には二つある。

一つは、気は必ず血(津液や精も含む)をたよりとしてつき従っている。気が血につき従わないと、フワフワとあてどもなくさまよい、迷子になってしまう。気は血の背中に載っかったような恰好で、血管の中を流れている。気は、血管の外に出ると血から津液に乗り換えて、自分も衛気へと変身し体表をめぐる。


二つ目は、気は、飲食物を吸収して得た血や津液の補充によってその力を充実させており、血や津液は気の機能の充実と維持の源泉である。
このような二点からしても分かるように、血は気の母ということができる。気は、血や津液あるいは精を離れて単独で存在することはできない。大出血の時、気は血に随って脱し、大汗の時は気は津液に随って脱する。

中国医学》:参考文献
・何金森教授 中医学基礎理論講議ノート:山田勝則編集 1992
・黄帝内経素問校注語釈:郭靄春編著、天津科学技術出版社 1999
・黄帝内経素問校注(上下):山東中医学院・河北医学院校釈、人民衛生出版社 1982
・黄帝内経霊枢校注語釈:郭靄春編著、天津科学技術出版社 1989
・針灸大成校釈:黒龍江省祖国医薬研究所校釈、人民衛生出版社 1995
・針灸名著集成:黄龍祥主編、華夏出版社 1996
・中医経典通釈傷寒雑病論:劉建平・劉仲喜・李大鈞・呉殿華編著、河北科学技術出版社 1996
・金匱要略臨床研究:王占璽主編、科学技術文献出版社 1996
・高等中医院校教学参考叢書中医診断学:トウ鉄涛主編、人民衛生出版社 1990
・中医病因病機学:宋鷺冰主編、人民衛生出版社 1987
・高等中医院校教学参考叢書中医内科学:張伯臾主編、人民衛生出版社 1997
・中医学問答題庫 中医基礎理論分册:張伯訥主編、山西科学技術出版社 1997
・針灸学:上海中医学院編 井垣清明・池上正治・浅川 要・村岡 潔共訳、刊々堂出版社 1988
・中医学入門:神戸中医学研究会編著、医歯薬出版株式会社 1986
・針灸学[基礎篇]:天津中医学院+学校法人後藤学園編 兵頭明監訳1991
・中国傷寒論解説:劉渡舟著 勝田正泰・川島繁男・菅沼伸・兵頭明訳、東洋学術出版社 1993
・中医辞海(上中下):袁鐘等主編、中国医薬科技出版社 1999
・漢方用語大辞典:創医会学術部編、株式会社燎原 1984